現代の若者会話における文末表現の男女差 (1996年調査より)
小川 早百合
0.
はじめに
日本語を学ぶ外国人学習者は、その学習レベルがあがるにつれて、親近感を示す表現を知りたいという希望が強くなってくるようである。それは、適切なinformal
speechを学びたいということである。(1)
なかでも最も切実な問題の1つに、男女の言葉の使い分けがある。日本語の話し言葉では、男女差が目立つので、外国人学習者にとっては、聞き手に違和感を与えないように話しをすることができているかが気になる点である。
しかし、教科書や教室で、informal
speechを体系的に教えられることはあまりない。親愛表現を学習させる方法が十分に確立されていないことは、水谷信子(1989,p29)でも指摘されている。(2)
また、最近は、言葉遣いに男女差がなくなってきていると一般的に言われており、特に高校生・大学生くらいでは、それが著しいという感じもするが、実際に調査して報告されたものはほとんどみかけることがない。
そこで、本稿では、話し言葉に女性らしい感じ・男性らしい感じを出すのに大きな役割を果たしている文末詞(終助詞)を取り上げて、その使い方に男女で違いがあるのかどうか、あるとすればどんな違いかを考察することとする。考察のデータとしては、日本人の若者が、実際の日常会話を録音し、それを文字化したものを利用する。
1.研究方法
1−1データについて
1996年11月、日本人大学生127名に、親しい者同士の会話を録音してそれを文字化してもらった。次に、文字化された全会話文から、終助詞を使っている文を抜き出し、男女別に分類したものを基本データとした。その際に、イントネーションは考慮していない。(3)
127の報告のうち、最も多かったのは、東京・およびその近郊の言葉によるもので、報告者自身の大学生を含めたものであった。そこで127の中から方言での会話、若者を含まないグループの会話、その他不備のあるものを除いた。また、各会話は、3分間をめどとしたものであるが、個々の話者の発話数に違いがあるので、採用する1人のデータ数は、最大でも、1人の平均の2倍を超えないようにし、かつ男女の発話数がほぼ同数になるように補正した。その結果、51組、129名、(女性65名、男性64名)、666の発話(女性330、男性336)を採用した。(4) このうち36組は男女の2名の会話、それ以外は男性2名が1組、残りは男女3名以上のグループであり、家族内の会話も6組あった。
1−2分析方法
このデータに表れた終助詞は、「か、さ、ざ、ぞ、な、ね、の、や、よ、わ」の10種類である。また、その複合したものを加えると、合計23種類となり、それを表1にまとめた。
表 1
表の右の「参考」欄には、これらの終助詞が、従来、どのように説明されてきたかの例を示した。(5)
本稿で「従来の説明」といった場合、特に断りのなければ、これを指す。
これらの終助詞の使用頻度、他の品詞とどう組み合わせて使われるかの2点を中心に分析する。ここでの基本的な10終助詞と他の品詞との考えうる組み合わせを提示しておく(表2)。
表 2
これに、従来の説明を参照しながら、終助詞の使い方の男女差を考察する。
2.分析と考察
2−1 男女別使用頻度順位と使用頻度の男女差
ここで使われた終助詞を使用頻度の高い順に並べると、以下のようになる。
女性による表現
@よ95 Aの 78 Bね 61 Cよね 35 D かな 17
Eのよ 12 F さ 10 Gな 5 Hのね
4 Iわ3
Jかね・なよ・のよね・わよ 2 Nのかな・や1 (回)
男性による表現 @よ 105 Aの 65 Bな43 Cね 33
Dよな・よね 17
Fかな 12 Gぞ11 Hぜ 10 Iさ 7 Jか 4
Kかよ・なよ・のかな・や・わ
2 Pかい・わね 1
(回)
この上位にあるものを使えば、それぞれ女性らしい表現・男性らしい表現をすることができると考えてよさそうであるが、ここでは、必ずしもそうではない。なぜなら、女性がよく使うものは、男性もよく使っていて、それが上位に多いからである。
では、次に、使用頻度の男女差に着目する。各表現ごとに、男女どちらかの使用頻度が多い方の数字から少ない方の数字を引いてみた。()内の数値は差。
女性の方が多く使う @ね(28)
Aよね(18) Bの(13) Cのよ(12)
Dかな(5)
Eのね(4) Fさ(3) Gわよ・のよね・かね(2) Jわ(1)
男性の方が多く使う @な(38) Aよな(17)
B ぞ(11) Cぜ(10)・よ(10)
Eか(4) Fかよ(2)
Gかい・のかな・や・わね(1)
となる。これをグラフに示すと以下のようになる。(図1)
図 1
グラフの棒が上にあるのが、女性の方が男性より使用頻度が多いもので、下は男性の方が多いものである。使用頻度の男女差を単純に比べれば、「ね」が女性に特徴的、「な」が男性に特徴的な終助詞ということになる。これは日常的な印象と比較して、大きな誤りはないように思える。
しかし、「ね」・「な」を使えば、どんな場合にも女性らしい表現・男性らしい表現になるのだろうか、あるいは、男女とも使用頻度は多いが差の小さい「よ」・「の」には、男女差を感じさせる要素はないのかなどの点について考察していきたい。(6)
2−2 な(・なよ)・よな
まず、図1でも明らかなように、「な」「よな」については、男性の使用が顕著に多い。「な」にはいくつかの用法があるが、その1つに、「動詞(辞書形)+な」、「動詞(ますform)+な」の形で禁止を含む命令形がある。それについて、従来の説明では男性的表現とされており、また外国人学習者のための文法辞典であるMakino・Tsutsui(1986,p266)でもnegative
imperative(禁止の命令形)は、男性が使うと説明してある。
このデータでは、女性の「な」の用法で命令文に相当するものは0だが、男性も43のうち2例しかない。また「な」の次に「よ」をつけて、「なよ」と言った時には、、男女合わせて4例のすべてが命令文である。したがって、ここでは、出現回数が少なく、正確に論じることはできないが、「な」の命令文は、現代の男性の話し言葉の特徴を示すものになっていない。
女性による5例は、「いいなあ」「めずらしいな」「行きたくないな」「好きじゃないな」「全部揚げると思うな」である。文法的な組み合わせでいうと、「形容詞+な」「否定形(ない)+な」「動詞(辞書形)+な」の3つの形となる。男性にもこの3用法があり、それ以外に、「またな」「うらやましい限りだな」「選んでるからな」「いいけどな」など、「名詞+な」「名詞+だ+な」「から(原因・理由を表す)+な」、「けど(けれども)+な」という形が比較的多くみられる。しかしこの中で最も多い「から+な」でも7例であり、どれか特定の品詞や文法的な用法にかたよっているわけではない。男性の用法は、ほとんどの品詞との組み合わせで出現している。
さらに「よな」をみると、男性17に対して、女性0である。男性は、「めずらしいよな」「専門じゃないよな」「五月病だよな」「大変だよな」「まいるよな」など、さまざまな品詞について出現する。
したがって、「な」「よな」は、男性が一般によく使うもので、男性の話し言葉の特徴の1つといえるものである。
2−3 ぞ・ぜ
「ぞ」「ぜ」に関しては、従来の説明で、主に男性の使うものとされており、このデータでも、使用頻度は各10回・11回と、多くはないが、女性による表現が全くなかったことから考えても、男性の話し言葉の特徴としてよいだろう。
2−4 の・のよ
「の」は、全体で143あり、女性が78例でやや多い。用法は大きく分けると疑問文とそれ以外の2つになる。疑問文について言えば、女性38、男性54で、男性の方がかなり多くなっている。この疑問文54というのは、男性の使った「の」のうちの80%以上に相当する。女性の場合は49%である。従来の説明では、「の」は女性が多く用いるものとしているが、疑問文に関しては、男性の方が「の」をよく使っていることになる。(7)
しかし、男性が「の」を使うのは、女性に対してであると、益岡・田窪(1992)、広辞苑(1995)がともに指摘するように、確かに、このデータでは、会話のグループの大半が男女混合なので、女性を相手にした際の男性の特徴的な話し方が表れたのもしれない。そこで、採取した会話の中から、男性同士のやりとりで、「の」を使っている場面を取り出してみる。
男女3対2のグループの会話では、男性3が「明日、みんなどうすんの?」「お前らどうすんの?」と2回使い、両方とも、男性1が答えている。これは、聞き手に男女混じっていたので、女性も含めての呼びかけのつもりで「の」を使ったのかもしれない。別のグループの家族4名の会話では、息子と両親がやりとりする中に、息子「柔道着はどこですか」、母「かごの中」、息子「これ(家族3人の食べている果物を指さして)」、父「切ってもらえば?」、息子「どこにあるの?」、父「そこにあるよ」、息子「ああ、柔道着どこ?」、母「こっちのかごの中よ」というのがある。息子は、父に対して「の」を使い、母に対しては、「の」を使わないで質問している。また、男子学生2名では、学生1「何でブラインドなの?」、学生2「わかるんじゃないの?」、「提出すんの?」というように「の」を使っている。学生2は疑問文以外にも、「そういうのは忙しいって言わないの」という言い方をしている。
ここの例からは、男性の疑問文における「の」の用法は、聞き手の性別による使い分けというよりも、話者個人の話し方の特徴として生じてくる要素が強いのではないだろうか。
また、男性は疑問文に、「か」「かい」を使うと従来言われながらも、このデータでは、男性は「か」「かい」をほとんど使っていない。その代わりに「の」が多く使われたと言えるのではないだろうか。(8)
次に、「の」を文末につけた疑問文以外のものは、男性11、女性40である。これはかなり大きな差であると言えよう。女性の使い方で特徴的なのは、「やめたの」「待ってたの」「開かなかったの」「嫌ってるって感じだったの」など、「品詞の過去形+の」の形が多く、これは男性には1例もなかった。
また、「のよ」も合わせてみておきたい。「のよ」は男性には1例もない表現で、女性の特徴である。使い方の特色は「の」と同じである。さらにこれに「ね」を付け加えた「のよね」も2例あり、女性だけが使っている。 以上、このデータに表れた「の」の特徴は、男女ともよく使うが、男性の場合は、疑問文に使うことが主で、疑問文以外で使う際には、「品詞の過去形+の」の用法はあまりない。「のよ」は女性の話し言葉に特徴的である。
2−5 ね
「ね」は女性の方がかなりよく使っている。その内容について検討してみたい。「たぶんね」「まあね」「じゃあね」などの相づちや挨拶に近いものは男女共によく使う。女性に特徴的なのは「名詞+ね」と「言いさし」の形である。「名詞+ね」は「みんなね」「一番ね」「写真ね」など10例あり、この用法は男性にはない。
次の「言いさし」の形とは、「作ってくれるしね」「変な口調だしね」「変わんないしね」など、「〜し+ね」の形で、女性に4例ある。また「それだけがね」「行動とかね」などを含めると、言いさしの形は8例ある。(そのうち異なり人数は6名。)男性では、言いさしの形は「やること決まってるしね」の1例だけである。
したがって、「ね」の用法の特徴は、男女とも相づち・挨拶によく使うが、一般には女性に多く使われ、「名詞+ね」や言いさしの形は、女性の話し言葉に特徴的である。 また「名詞・形容動詞+だ+ね」は、女性7、男性5例で、男女のどちらかに特徴的に表れるということはない。「〜だ+終助詞」については、後述する。
2−6 よ・よね
「よ」は男女共にもっとも多く使われている。そのため使用頻度の男女差はほとんどない。また品詞との組み合わせによる異なりをみても、男女ほぼ同じである。従来の説明では、「よ」の前に「だ」のある形「〜だよ」になるのは男性の使い方とされている。そこで、「〜だよ」などが、男女それぞれどれくらい使われているかを、表1の「参考」欄の説明に準じて数えると、
女性の使用頻度:体言+だ+よ=28、
体言+よ=3、 終止形+よ=39
男性の使用頻度:体言+だ+よ=47、
体言+よ=3、終止形+よ=40となる。
「だ+よ」文は、男性の使用が比較的多いが、女性もその半分程度の使用頻度で、決して少なくはない。また体言のあと「だ」をつけずに「よ」だけをつけた言い方は、女性の用法と説明されているが、ここでの数は3例と、極端に少ない。男性も同様に3例で、「〜わけよ」「〜みたいなやつよ」などである。
したがって、「〜だよ」と言うか言わないかが、男女の言葉遣いの差を決定づけるための指標とはならないようである。
また「終止形+よ」は男ことばという従来の説明を検証してみる。使用頻度は、女性39、男性40である。女性は「体がだるいよ」「〜と思うよ」「書いてあるよ」、男性は「うまいよ」「時間らしいよ」「持ってるよ」などで、頻度・用法とも男女差はなく、「男ことば」には相当しないようである。
以上から、「よ」は、男女共一般的によく使う終助詞であると言える。「だ+よ」の形は、従来、男性特有の用法とされていたが、女性もよく使う表現で、男性の話し言葉の決定的な特徴となっていない。また「よね」は女性の方がよく使う表現である。
2−7 さ
次に、使用頻度があまり多くないものも見ておきたい。まず、「さ」であるが、従来の説明では、男性の話し言葉の特徴とされている。しかし、ここでは全体の数は少ないためか、男女差がほとんどない。女性は、10例中7例が、「使ってもらおうと思ってさ」「言ちゃってさ」「ゴロゴロしてさ」という「〜て+さ」の形になっている。残り3例のうち2例は、「〜だけどさ」「〜なくっちゃさ」の言いさしの形である。1例だけが「情報公開さ」という言い切りである。
一方男性の方は、7例中4例が「〜て+さ」など言いさしの形で、残り3例が「いないからさ」など「〜からさ」という言い切りの形になっている。用例が少なく、断定はできないが、女性の用法は「言いさし+さ」、男性の用法は、「言いさし+さ」・「言い切り+さ」の2種類になることがわかる。
従来、「さ」が男性の話し言葉の特徴とされてきたのは、「言い切り+さ」の形が主に使われていたからではないだろうか。しかし、実際には、「言いさし+さ」も多く、これは男女共に使われる。言いさしの形は、むしろ女性の話し言葉の方の特徴と言えるかもしれない。
「さ」については、用例が少なく、正確さを欠くかもしれないが、「言い切り+さ」は男性、「言いさし+さ」は女性の話し言葉の特徴ではないだろうか。
2−8 わ
「わ」も使用頻度が少なく、ここで、論じるのは不適当かもしれないが、従来の説明や、多くの辞書・文法書類で、女性の使う代表的表現のように扱われているものなので、触れておきたい。
このデータでは、「わ」「わね」「わよ」すべて合わせても8例しかなく、そのうち3例は男性による表現である。また異なり人数は、女性4名、男性3名である。表1の中に例示した発話以外は、女性の「うらやましいわ」「バイトしたいわ」、男性の「言っといたわ」である。この8例の「〜わ」が、男女で全く同じニュアンスで使われているのかどうかは、イントネーションが確認できないので、何とも言えない。また、用例が極端に少ないのは、ほとんどが20歳前後の大学生の会話であったためかもしれない。(9)
したがって、必ずしも日本人全体の傾向を反映したものではないが、ここから言えることは、若い女性は、「わ」を使うことがかなり少少ないということである。
2−9 〜だ+終助詞
2−6で「だ+よ」について考察したが、「だ」と他の終助詞の組み合わせについてもみておく。「〜だ+終助詞」形のものを数えると、表3のようになる。表の最下段には男女差をf−mとして数値で表した。−(マイナス)になって
表 3
|
だぜ |
だぞ |
だな |
だね |
だよ |
だよな |
だよね |
だわ |
合計 |
f(女性) |
0 |
0 |
0 |
7 |
26 |
0 |
18 |
0 |
51 |
m(男性) |
5 |
2 |
6 |
5 |
46 |
4 |
8 |
0 |
76 |
合計 |
5 |
2 |
6 |
12 |
72 |
4 |
26 |
0 |
127 |
f−m |
-5 |
-2 |
-6 |
2 |
-20 |
-4 |
10 |
0 |
-25 |
いるものは、男性の使用頻度が女性より多いものである。「〜だ+終助詞」の用法は、全体では男性の方がやや多い。しかし、もともと女性が全く使っていない「ぜ・ぞ・よな」がついた「だぜ・だぞ・だよな」、男女とも用例のない「だわ」を除いて考えると、女性が使わない組み合わせは「だな」だけある。「だよ」については、2−6で述べた通りである。そして「だね・だよね」になると、むしろ女性の使用が多くなり、「だよね」ではそれが目立って多い。
「だよ」だけでは、男性の方が多く使っていのに、そのあとに「ね」をつけて「だよね」にすると、女性の方が上回ってくるのは、「ね」をつけることによって、男性的な感じを回避できるため、女性にとって使いやすくなっているからではないだろうか。したがって、「だよね」の場合は、女性の話し言葉の特徴ともなりうるものである。
2−10 〜な・〜ね・〜よ
2−9の「だよね」の「ね」の場合は、「より後ろ」につく終助詞が女性の話し言葉の特徴を出している。他の例として、「なよ」「よな」を比較すると、「なよ」よりも「よな」の方が、明らかに、男性特有の言葉遣いである。これは男性の話し言葉としての特徴が強い「な」が「より後ろ」にあるためである。
したがって、話し言葉の男女らしさの特徴を決定づける要素となるのは、「より後ろ」にくる方の終助詞であるので、それに着目して数をみておきたい。「な」「ね」「の」の3終助詞が「より後ろ」につくことができるもので、まとめると表4のようになる。「〜な」は「な・かな・のかな・よな」、「〜ね」は「ね・かね・のね・のよね・よね・わね」、「〜よ」は「よ・かよ・なよ・のよ・わよ」の使用数の合計である。(表4)
表 4
|
な・〜な |
ね・〜ね |
よ・〜よ |
の |
f(女性) |
23 |
104 |
111 |
78 |
m(男性) |
74 |
51 |
109 |
65 |
合計 |
97 |
155 |
200 |
143 |
f−m |
-51 |
53 |
2 |
13 |
これをみると、女性の使用頻度は多い順に、@よ Aね Bの Cな、男性は、
@よ Aな Bの
Cね、となる。さらに男女差をみると、表の最下段のようになる。これを2−1で分析したものと比較すると、差の大きかった「ね」と「な」の男女差が、さらに広がったものになっている。したがって、ここでも「ね」は女性に、「な」は男性に特徴的に使われるという結果が得られた。
3.
まとめ
以上、分析・考察してきたことをもう一度提示すると、図2のようになる。終助詞の男女の使用頻度の相関グラフで、女性の使用頻度を横軸、男性の使用頻度を縦軸としてある。真ん中の対角線より右側にあるのが、女性の方がよりよく使う表現、左側が男性がよりよく使う表現で、対角線に近ければ、男女差は少なくなる。対角線の左右にある線は、男女差が2倍以上あるかを示すもので、線から離れるほど、差が大きくなる。「の」は疑問文とそれ以外に分けた。
このグラフにも示された男女の使用頻度の相関、使用された各終助詞の絶対数、それに日常生活で経験的に感じる話し言葉の男女差、この3点を考え合わせて、終助詞の使い方の男女差をまとめる。(図2 終助詞の使用頻度)
図 2
女性がよく使う表現を「女性度が高い」、
男性がよく使う表現を「男性度が高い」、
男女共よく使う表現を「中性度が高い」
という語を使って表す。
女性度が高いもの:のよ、の(疑問文以外)
女性度がやや高いもの:よね、ね
男性度が高いもの:よな、ぜ、ぞ、な
中性度が高いもの:よ、の(疑問文)
中性度が高いものがよく使われる傾向があるが、依然として、現代の若者の話し言葉にも男女で違いがあることが確かめられたと言える。これを日本語教育の話し言葉指導の中にどう体系化していくかが今後の課題である。
また、話し言葉に男女差がなくなったといわれる点については、従来の説明とは、かけ離れた結果も多くあることからも、確かに認められるところである。特にそう感じられるのは、@男女差なく「よ」を使う、A女性の「だ+よ」文、B男女共「さ」を使う、C女性が「わ」をあまり使わない、D男女共、疑問文に「の」を使う、などが要因ではないだろうか。過去に調査された類似のデータを見いだせないので、こうした変化がどのように起こっているのかを確認できないが、継続的に調べいくことが、もう1つの今後の課題となろう。
注
(1)「デス・マス体」指導の問題点については山下秀雄(1989)に的確に述べられている。
本文へもどる
(2) 十分に体系的とは言えないが、"Modern Japanese for University Students"
(1963-68)は、男女の話し方の違いを示したテキストとして、先駆をなすものである。
インフォーマルな会話を提示する理由などについては、小出(1972,p261)に説明さ
れている。また、1986年の段階でも、小出詞子著『日本語(にほんご/にっぽんご』
で男女の普通体会話を提示するのは特筆に値すると評価されている(野田1986,p50)。
本文へもどる
(3) また、終助詞を使っていない発話や終助詞以外の特徴的な文末表現(「〜じゃん」)
などについても、今回の分析の対象にはしていない。本文へもどる
(4) このデータの統計学的な標本の評価については不十分である。また、各終助詞別
にはデータ数がかなり少なく、正確を期すのが難しい面もあるが、文学作品や新聞・
雑誌・テレビドラマなどマスメディア以外のところから採取した生の会話記録として
は、類例の少ないものと思われるので、ここで分析した発話の全データをインターネ
ット上のホームページに掲載しておく。現代の若者会話のデータ 本文へもどる
(5) 例示に使用した文献は、終助詞の使い方の男女差について、ある程度の説明して
あるものの中から、古い時代と現代のものを取り合わせて、恣意的に3冊を選んだ。
国立国語研究所(1951)『現代語の助詞・助動詞−用法と実例−』は、1949〜50年の
新聞・雑誌から助詞の使用例を大規模に採取して、分類・解説したものである。
本文へもどる
(6) 発話の中での各終助詞の意味、コミュニケーション上の機能、イントネーション
の違いによる意味の変化などへは言及しない。「ね」「よ」の機能については、神尾
(1990)、益岡(1991)、白川(1992)、伊豆原(1994)他がある。本文へもどる
(7) ここで、疑問文と判定したのは、文字化されたものに?マークがついているもの、
疑問詞のあるもの、及び「はい・いいえ」の返事がある文である。ほとんどの報告で、
疑問詞を使わない疑問文には?がつけられている。本文へもどる
(8) ただし、「か」も「の」も使わず、イントネーションの上昇だけ で疑問を表す
のが、男女とも相当数あるが、今回の調査では集計をしていない。本文へもどる
(9) 今回は採用しなかったデータの中に、中年女性同士の会話や、若者(女性)と年
輩の女性との会話があったが、そこにも「わ」は出現していない。本文へもどる
参考文献
(1)
伊豆原英子(1993),「『ね』と『よ』の再考−『ね』と『よ』のコミュニケーション機能の考察から−」『日本語教育』80号
(2)
――――(1994),「感動詞・間投助詞・終助詞「ね・ねえ」のイントネーション−談話進行との関わりから−」『日本語教育』83号
(3)
伊豆原英子・嶽逸子(1992),「中・上級学習者の話し言葉(独話)の分析と考 察−情報伝達を通して−」『日本語教育』77号
(4)
井出祥子(1983),「女性の話しことば」『話しことばの表現』(水谷修編)筑摩書房 (5)
大島弘子(1996),「聞き手に関する発話文について」『日本語教育』89号
(6)
岡野喜美子(1993),「話しことば教育と書きことば教育−教科書作成の理念と実際−」『講座日本語教育』第28分冊 早稲田大学日本語研究教育センター
(7)
神尾昭雄(1990),『情報のなわばり理論』大修館書店
(8)
小出詞子(1972),「日本語教育について」(文化庁編)『日本語教授法の諸問題』
(9)
国立国語研究所(1951),『現代語の助詞・助動詞−用法と実例−』秀英出版
(10)
白川博之(1992),「終助詞『よ』の機能」『日本語教育』77号
(11)
新村出編(1995),『広辞苑 第四版CD-ROM(カラー)版』岩波書店
(12)
野田尚史(1986),「日本語教科書における文型の扱い」『日本語教育』59号
(13) 堀井令以知(1990),『女の言葉』明治書院
(14)
益岡隆志(1991),『モダリティの文法』くろしお出版
(15) 益岡隆志・田窪行則(1992),『基礎日本語文法−改訂版−』くろしお出版
(16)
益岡隆志・仁田義雄編(1989),『日本語のモダリティ』くろしお出版
(17)
水谷信子(1980),「中・上級の話し方指導」(国立国語研究所編)『中上級の教授法』
(18)
――――(1989),「待遇表現指導の方法」『日本語教育』69号
(19) 森田良行(1990),『日本語学と日本語教育』凡人社
(20)
山下秀雄(1989)「日本語教育における初級と待遇表現」『日本語教育』69号
(21)
山下睦美(1993),「やり直す日本語一試案(ブラジル日系日本語学習者対象)−話し言葉を中心に−」『講座日本語教育』第28分冊
早稲田大学日本語研究教育センター
(22) 山本富美子(1989)「待遇表現としての文体」『日本語教育』69号
(23) Makino
Seiichi & Tsutsui Michio (1986), A Dictionary of Basic Japanese Grammar The
Japan Times
|